美容師と比べてトリマーの鋏がすぐに切れなくなる理由は?

今日はトリマーさんの鋏の鋼材について書こうと思います。

僕は鋏を作ったり、砥いだりという事をしていないので、研ぎ職人さんほどの知識はありませんが、シザーを色々と触ってみるのが好きです。

トリマーはほとんどが女性なので、「この鋏、使いやすいよ」と紹介されても、男性の大きい手だと窮屈だったりする事もよくあり。鋏でかなり散財しています(苦笑)

で、トリマーの鋏は美容師の鋏と比べてなぜすぐに切れなくなるかという事ですが

  1. 鋏の素材(鋼材)の違い
  2. 開閉が多いので摩耗しやすい
  3. ネジが緩め
  4. 鋏のつくりが悪い
  5. 手入れをあまりしない

主にこの5つだと思います。

開閉回数の多さによる摩耗

2の開閉が多いというのは分かりやすく、人間の頭と比べると犬の体はカット面積が広く、常にシャキシャキ鋏を動かさなければならないのがトリマーです。鋏は閉じると僅かに擦り合わさっていて、開閉するだけで消耗していきます。刃先の先端に摩耗による目に見えない小さな「バリ」を「返り刃」と呼びますが、セーム革で拭くことで除去できます。

空バサミでシャキシャキするだけで消耗していくので、メーカーさんの目の前でサンプルシザーを試す時は「開閉していいですか?」と聞いてからゆっくり開閉する感じで扱うと印象が良いと思います^^

3のネジが緩めというのも磨耗に影響してきて、トリマーはネジを緩めで使っていたり、ネジが緩んできても締め直さない人が多い気がします。

ネジを緩めで使うとカットの手首への負担は減りますが、刃こぼれしやすくなります。押し切のクセがある人も刃こぼれしやすいです。

ただ、緩いのが決してダメという訳ではなく、緩いほど鋏が消耗しやすくなるというだけなので、僕もネジは若干緩めて使う事が多いです。

鋏の素材(鋼材)の違い

トリミングシザーを選ぶ時に一番重視している事は手にフィットするかどうかですが、その鋏が永切れするかどうかは「鋼材」も影響してきます。

まったく同じ形の鋏で刃の調整も同じなら、鋼材の違いは切れ味にほとんど影響しないはずです。鋼材で違いが出るのは

  • 耐久磨耗性
  • 粘り
  • 硬さ
  • 重さ
  • 錆にくさ

粘りは硬さとは別で、粘りがあると刃こぼれがしづらくなります。

シザーの鋼材の種類

シザーの鋼材は大きく分けると主に4つで

  1. ステンレス合金(コバルトが使われていない)
    約1~3万円
  2. コバルト合金
    約3~10万円
  3. 微粒子粉末鋼、ハイス鋼
    約5万円~
  4. 純コバルト(コバルト含有量50%超)
    約10万円~

※値段は販売価格(定価ではありません)でおおよそのイメージです。

よい鋼材ほど耐久摩耗性が高いので永切れします。(高くて安い鋼材の鋏はありますが、安くて高い鋼材の鋏はないと思います)

ただ、鋏の使いやすさは「基本的なつくり」「刃付け」「鋼材」によるので鋼材だけが良くても使いやすいとは限りません

鋏の鋼材に含まれる成分や硬度を細かく知りたい方は、武生特殊鋼材のオリジナル刃物鋼群 「V鋼シリーズ」をチェックしてみてください!

1. ステンレス合金(コバルトが使われていない)

2万円ぐらいの安い鋏はステンレス合金がほとんどで、たとえコバルトを含んでいたとしても、この価格帯のモノはステンレス合金と差は出ないと思います。むしろ安い鋏で鋼材をアピールされると逆に疑ってしまいます。

研ぎに出した時はとんでもなく切れるのに、すぐに切れ味が落ちていくのが特徴です。メリットは「圧倒的な安さ!」良い鋏を1本買うぐらいなら安い鋏を3本という考え方もあります。

値段が安いので数本常備して研ぎに出しながらローテーションで使っているトリマーさんもいると思います。また、カーブシザーは曲げる加工が必要なこともありステンレス合金を使ったシザーが多いですね。

1頭仕上げる毎に「返り刃」をセーム革で拭き取ったり、オイルでキチンとお手入れをしないとすぐに切れなくなるのがステンレス合金の鋏です。お手入れをしっかりしてあげれば長く使えます。

トリマーの使う安い鋏のほとんどがステンレス合金で、美容師の鋏としてはあまり使われない鋼材ですね。

2. コバルト合金

コバルトが含まれている鋼材で美容師さんの鋏のほとんどがコレに当てはまります。トリマーがプードルの仕上げ用として使っている鋏の多くも、コバルト合金の鋏だと思います。

  • コバルト合金鋼
  • V金10

など、名前は製法やメーカーで違いはありますが、コバルトを含んだ鋏です。ステンレスと同じように錆びにくく、ステンレスよりも永切れします。値段や質はピンきりなので、メーカーによって差が出てきます。

次の微粒子粉末鋼、ハイス鋼、純コバルト(ステライト)もコバルトを含んでいます。

3. 微粒子粉末鋼、ハイス鋼

コバルト合金と何が違うかというと製法で、硬度を上げるタングステン、粘りを出すモリブデン、添加剤としてのバナジウムなどの各種金属素材を微粒子化して焼き固めた鋼材です。

先ほど紹介した武生特殊鋼材のページを読むと鋼材の硬さ(赤枠の部分)が書かれていますが

コバルト合金のV金10と比べると非常に硬い事が分かります。

材質が非常に硬いたけではなく、耐久磨耗性も非常に高く永切れする鋼材で、美容師さんにも人気があります。

気軽に買える値段ではなくなりますが、非常に丈夫です。

僕は1本、美容シザーメーカーの水谷のDB20という粉末鋼材系の鋏を持っていますが、硬くて丈夫なのに軽量です。ステンレス系の鋏は研いだ後は徐々に切れ味が柔らかくなっていきますが、粉末鋼系の硬い素材だと使っていても切れ味の変化を感じません。

DB20がお勧めかというと、おすすめではありません!!ハンドルが手首の自由が利きにくいオフセットタイプなので、手首を固定して面を作るのは得意ですが、丸みや形を作るのは苦手な鋏なんです。

トリマーは手首を柔らかくして鋏を色々な角度で使うので、手首に自由の効く3Dハンドルの方が便利なんですよね。

※ところで、ペットブランドではケリーの鋏は超微粒子特殊合金と記載されていますが、ハイス系や粉末鋼系と同じ硬度、耐久摩耗性がある鋼材なのか確認した事がないので分かりません。ただ、カーブシザーも超微粒子特殊合金で作っているので、表の粉末鋼系とは別のモノだと思います。ハイス系、粉末鋼系の硬さの鋼材を曲げるのは難しいはずなので。ジョーウェルのスーパーアロイに似た鋼材(もしくは同じ?)ではないかと。

4. 純コバルト(コバルト含有量50%超)

ステライトとも呼ばれる鋼材です。10万円を超える超高級シザーで製造できるメーカーも限られています。耐久磨耗性も高いうえに、錆にも非常に強く、美容師は濡れた髪を切るため優れた鋼材とされています。

ステライトの鋏をトリマーで使っている人はいるのかな?

まとめ

ここまで書くと、ステンレスの鋏はダメな鋏なんじゃないかと思ってしまいそうですが、使いやすい事が一番大切だと思います。ステンレスでも作りが良いものは使いやすいです。

鋏の良さは「基本的なつくり」「刃付け」「鋼材」で決まるので、同じ工場で出来た鋏でも調整する職人さんによっては仕上がりが全然違います。ステンレスでも使いやすいモノは使いやすいです。10万円の人間用のシザーをトリミングで使ったらサクサクに切れるかと言われたら、犬の毛に合わせて調整してもらわないと切れない可能性があります。

3つのポイントが揃ってはじめて良い鋏になります。

鋏を探す時は1~3万円程度なら種類の多いペットブランドの方が探しやすいですが、5万円以上の1本を探す時は美容ブランドも候補になります。

基本的に美容ブランドの鋏の方が作りが良いので、ある程度の値段を考えているならペットブランドにこだわらなくても良いと思います。

セニング、カーブについては美容師と少し用途が違うのでペットブランドで探した方が失敗しません。

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